〈ものがたり〉は、すでにはじまっています。

「ベータ村」も、今朝は雨です。数日前、入居希望者の申請がしめ切られ、厳正なる審査の結果、入居者がえらばれました。早ければ、来週後半から、入居の準備について案内できる見込みです。

「ベータ村」についての故事来歴、その他いろいろなことは、(長くなるので)いまは省略しますが、ここでも、住人たちは不自由な毎日を過ごすことになります。対面で話をしたり、食事をしたりすることは禁じられています。できるかぎり、じぶんの“ホーム”にいて、オンラインで外部と接続します。顔を見ることさえできないし、「本当の名前」すらわからないのですが、明滅するディスプレイ上で、テキストをやりとりしていると、きっと体温を感じられるようになります。ことばで感情が動くことを、ぼくたちは、知っているからです。そして、どんなことがあっても、「ベータ村」には、ことばを発する愉しさと自由があります(そう、願っています)。

この先、「ベータ村」では、いろいろな事件(ハプニング)が発生します。その都度、みんなのコミュニケーションをとおして、一人ひとりのこと、そしてちいさな「集まり」のことについて考えていきます。

この、不自然で窮屈に思える暮らしのなかから、「何か」が生まれるはずです。“メール”や“掲示板”など、リアルな世界のことばやコンセプトが、オンラインでの仕組みを説明したり理解したりするのに役立ったように、こんどは、どこかにある(かもしれない)「ベータ村」のオンライン生活のなかで生まれたことばやコンセプトで、リアルな世界をふたたび読み直していく。それが、「ベータ村」の存在意義です。気づいたら、ぼくは、すでにこんな〈ものがたり〉のなかにいました。(つづく)