これは、平常時の「リフレクティブデザイン」の講義概要です。

「リフレクティブデザイン」のテーマは、コミュニケーションをデザインすることです。 わたしたちが、日常生活のさまざまな出来事について思い描くイメージ(先入観や偏見などもふくむ)と、人間行動・コミュニケーションとの関わりについて理解を試みることで、このテーマにアプローチします。モノやサービスに直結するとはかぎりませんが、コミュニケーションの本質を理解することは、デザインという営みには不可欠です。わたしたちのコミュニケーション行動を単純化し、緩やかなルールを考えることで、コミュニケーション(あるいはコミュニケーションの場)のデザインについて考えてみます。 こうしたテーマに取り組むために、具体的には「ゲーミングシミュレーション(以下ゲーミング)」とよばれる「体験学習」の方法を使います。「ゲーミング」 は、〈ゲーム〉という能動的な参加(participation)と、〈シミュレーション〉という実験的な探索(exploration)を組み合わせたユニークな学習機会を構成します。具体的には、社会関係をテーマとするいくつかの“ゲーミング”のなかで、それぞれがロールプレイ等を体験しながらわたしたちのコミュニケーション行動について考えることになります。取り扱うテーマは、

  • 集団における意思決定
  • 情報の共有
  • 社会的ジレンマ状況
  • 交渉
  • コラボレーション

などです。これらの題材を、「ゲーミング」として体験し、考察します。

単純化すると、「ゲーミング」に代表される「体験学習」の理論は、わたしたちの日常生活における直接体験こそが学習の源泉であるという仮定に依拠しています。何らかの課題(タスク)に直面するという状況が、さまざまな対処の方法を模索するという活動に結びつきます。そして、活動をともなう試行錯誤のプロセスをつうじてわれわれは「経験のレパートリー」ともいうべきものを育み、蓄積していくのです。こうして体得された知識は、類似した問題状況において喚起され、〈その時・その場〉(あるいは、〈いま・ここ〉)での有意味な活動へと結びつきます。このようにして、学習は「効果」や「結果」ではなく継続的な「プロセス」として概念化すべきものであることが強調されるのです。 たとえばコルブ(Kolb, 1984)は、デューイに代表されるプラグマティズムの理念や、フレイレのような革新的な教育思想等をふまえて、「脱教室化」を目指す学習が、大きく以下の4つのフェーズから構成されるものとして性格づけています。

  • 経験(Concrete Experience)
  • 省察(Reflective Observation)
  • 概念化(Abstract Conceptualization)
  • 実践(Active Experimentation)

この4つの側面が環状の「プロセス」を構成しています。つまり、学習は本質的には「始まり」も「終わり」も同定することが困難な、動的な「プロセス」としてとらえられるのです。 重要なのは、「ゲーミング」として構成される世界での体験や発見・気づきを、他の場面における人間関係・コミュニケーションをめぐる問題、とりわけコミュニケーションのデザインという問題と関連づけて理解するという点です。 「リフレクティブデザイン」の中心となる演習は、その目的・方法によってことなりますが、いずれも大体7~8名ほどのグループで(授業時間中に)取り組むことになります。 「ゲーミング」の実践においては、ファシリテーターが重要な役割を果たします。ファシリテーターというコンセプト(あたらしい人材のタイプ)は、近年、会議やワークショップの運営において注目されていますが、「ゲーミング」におけるファシリテーターのふるまいは、ルールの説明や時間の配分、さらには学習効果の問題にいたるまで、「ゲーミング」というプロセスを円滑にすすめるためのさまざまな側面と密接に関連しています。

また、「ゲーミング」においては、「ふりかえり(ディブリーフィング: debriefing)」とよばれる過程が重要です。「ふりかえり」は、いわゆる「まとめ」や「反省会」ではなく、演習での体験を再現しながら、その過程を事後的に分析するフェーズです。つまり、プレイヤーは、「ゲーミング」のなかで経験した事柄を、日常生活における事象との類推を試みることで、さらに広い社会的・文化的文脈に位置づけることが求められます。この、自省的・反省的なプロセスは、デザインという営みに密接に関わっており、アイデアをかたちにするときに役立つのです。